未来への追憶 第一話 - 01

 春の柔らかな陽の光が、立ち並ぶビルの窓ガラスに反射している。青く澄んだ空とは裏腹に、阿久津健二の心は暗く沈んでいた。石畳の歩道を歩く足取りも重い。
 会社勤めの人々が昼の休憩を終えた後であろうと思われる時間帯だからか、オフィス街の人通りはそれほど多くなかった。歩道の植え込みの草木は少しでもたくさんの日光をその身に浴びようと、鮮やかな新緑の葉を空に向かって広げている。
 皮肉なほど穏やかな景色は、今の健二にとってはかえって虚しさを増長させているような気さえした。
 自分はいったい何をしているのだろう。こんなはずではなかった。
 世界はこんなにも光に満ち溢れているのに、自分はこの世界に対して何の役にも立っていないのではないか。なんてつまらない、無力な人間なんだ。大げさにもそのような感覚に陥る。
 健二の頭の中では、先ほどの会議での出来事が反芻されていた。
 会議で起こった出来事自体は取り立てて珍しいことではない。何ヶ月も前から練りに練って育てあげたアイデア、何週間も前から準備していたプレゼンテーションを手ひどく批判され、一蹴されてしまったのだ。
 健二の勤め先はロボットの研究開発を行っている企業で、健二は企画開発部に所属している。そして今日、健二は新商品開発のためのプロジェクトチームのリーダーとして、東京にある本社の会議に出席していたのだった。自分が周りを引っ張っていくリーダーという立場に就くことも、チームの代表としてプレゼンを行うのも初めてのことだった。
 今朝、神奈川のマンションを出る時に胸を満たしていた、自分達のチームが手がけているプロジェクトの未来は明るいものになるに違いないという自信と高揚感。それらの気持ちは、今はもうすっかり消え失せてしまった。重い溜め息が口から漏れる。

「君の案は現実的ではない」

 簡単に言うとそういうことだった。
 実際、健二の理想を実現するには様々な問題があった。企業の方針。供給に対して、確実な需要が見込めるか。会社であるからには、何より利益を出さなければならない。健二自身、会議で指摘されたことは間違いだとは思わなかった。ゆえに、より落胆したのだ。
 健二の考えた商品を作るには、今の時代の技術では効率的な方法が無かった。現在可能な方法でなんとか作り出すための案は、莫大なコストがかかる上に生産性も上げられない。仮に商品にできたとしても、一般の人々が気軽に手を出せる値段ではとても売り出せなかった。一般家庭向けの商品ではそれでは意味が無い。価格を下げるには何十年もかかるだろう。
 よって、実質今の時代では実現が不可能だった。
 健二としてはそれらの問題をフォローし、成果を出せるところまで想定していたはずだった。だが、健二一人が取り組むわけではなく、会社としての目的はまた別なのだ。
 結局、考えが浅はかだったということだ。
 アイデアを語るのは簡単だが、物事には様々な側面があり、実際に会社として商品を世に出すにはもっと広い目で見ないとやっていけない。そのことを改めて痛感した。

「阿久津、お前は真面目な奴だし、同僚や後輩からも慕われてて人望も厚いみたいじゃないか。お前にはそういう良いところがあるんだから、自分の長所を理解して、もっとそういう面を活かせる道を考えた方がいいかもしれんな」

 最後に社長が静かに口にした言葉は、健二には何の救いにもならなかった。
 つまり、健二には現実的な企画をする才能が無いということをやんわりと伝えられたのだ。非現実的な企画を立案することを諦め、持ち前の愛想の良さと面倒見の良さで周囲と強調し、大人しくただ日々の仕事に取り組む方が向いているということだ。
 しかしそれでも、例えそこまで言われたとしても、決して諦めたくはなかった。
 もっと研究を重ねて、まずは技術的な面をクリアできれば道は開けるはずだった。よりコストのかからない、実用化に適した方法があるはずだ。時間をかけてそれを見つければいい。
 かといって、健二にはそれらを一人で成し遂げる資金があるわけでもなく、今の生活をすべて捨ててしまって賭けに出る勇気も持てないでいるのだった。
 横断歩道の前で足を止める。信号は赤だった。目の前の四車線の道路を次々と車が走り抜けていく。健二は足元に落ちた自分の影と、両足を包んでいる黒い革靴の先を見つめた。
 横断歩道の右側には配送業者の小型トラックが駐車されていた。近くのビルに用があったのだろうが、横断歩道から5mも離れていないところに停められている。明らかに道路交通法に違反しているが、そんなことに目を向ける余裕は今の健二には無かった。
 今日の会議の結果を、チームのメンバーにどのように伝えたら良いというのだろう。特に、自分の目指すところに共感し、自分を尊敬しているとまで言ってくれた後輩達には合わせる顔が無い。再び溜め息を吐く。
 今までも自分の考えを一笑に付されたことは幾度もあったし、職場でもプライベートでも、話すら聞いてもらえないことも多々あった。
 だが今回は、今度こそ、という気持ちが強かっただけにショックも大きい。所詮、夢は夢でしかないのか。
 歩行者用の信号が青に変わり、健二は足を踏み出した。ぼんやりと考えを巡らせたまま一歩、二歩と歩を進めたその時。突然、右方向から平穏な春の午後には不釣り合いと思える音が響き渡った。
 車の急ブレーキの音だ。
 タイヤがアスファルトを擦る甲高い音に、頭の中を占めていた考え事が一気に吹き飛び、健二ははっとして振り返った。
 驚くほど近くに中型トラックの姿があった。
 歩道のすぐ側の駐車車両が視界を遮り、歩行者の確認を怠って突っ込んできた左折車にまったく気がつかなかった。
 あ。と、思った。
 その時にはすでにどうすることもできず、気がついた時には巨大な車体の冷たい顔が目の前に迫っていた。自分に向かって近づいてくる様子が、やけにゆっくりと目に映る。
 脳の思考を司る器官はすでに正しく機能していないに違い。だが、もしかしたら同時にあまりにもたくさんのことを考えていたためにそう感じただけなのかもしれない。
 衝撃。金属の塊が体にぶつかった瞬間のそれは、痛みではなくとてつもない衝撃だった。
 息が詰まり、今度こそ頭が真っ白になる。
 視界が暗転する直前、世界がぐるりと回り、真っ青な空が見えたような気がした。



>> To be continued.



読んでくださってありがとうございます!
次回は今週末辺りに更新できたらなと思っています^^*


Friends

friends.jpg

レイとシンディーと虎太郎。

マスターに洗脳される前のこの三人の絵をずーっと描いてみたかったのですよ…!!

レイは眼帯無しで、虎太郎は眼鏡(外してる時もありますが)

ちなみに、レイの髪のリボンはシンディーに貰ったものです。
虎太郎も同じリボンで髪をまとめてるんですが、鞄で見えなくなっちゃった…

いろいろ気に入らないところはありますが、シンディーの笑顔が可愛くかけたのでまあ良いかな(笑)


今回は原寸サイズも置いておきます!→大きいやつ

ハンナ・ライル

未来への追憶/ハンナ・ライル

●大きいサイズは→こちら

マサ様より素材をお借りしました。ありがとうございます!


背景別パターン↓

未来への追憶/ハンナ・ライル

こっちも結構気に入っています♪
●大きいサイズは→こちら

素材ははらこ様からお借りしています。ありがとうございます!

Pagination