未来への追憶 第三話 - 01

 その青年は、恐怖に包まれた店内に突如として舞い降りてきた。
 アクセサリーやジュエリーを扱う洒落た店内は先ほどまで女性客で賑わっていたが、今その場を支配しているのは銃を携帯した三人の物騒な男たちだ。店に並んだ商品が目当てという点では他の客と共通しているが、顔をフェイスマスクで隠した男たちが欲しているのは、ショーケースに飾られているようなとりわけ高額な値段がつけられた品だった。
 ほんの数分前、入り口の自動ドアの隙間から円盤型をした小さな機械が投げ込まれた。途端に、それまで店の中をゆっくりと巡回していた二足歩行の警備用ロボットは、一体残らずぴたりと動きを停止した。そして、間髪を入れずに覆面の強盗たちが押し入ってきたのだ。
 男の一人が天井に向かって数発の銃弾を発砲し、悲鳴を上げる客に銃口を向けると、怒声を浴びせて黙らせた。そのまま客たちを一か所に集め、携帯通信機で助けを呼んだり、不審な動きをしたりする者がいないか目を光らせる。その間に別の男は店員の一人に銃を突きつけて人質とし、三人目の男がもう一人の店員にショーケースを開けるように指示すると、取り出した商品を乱暴に鞄に詰めていく。
 今しがた、ロボットの動きを瞬時にして停止させた機械の影響でか、店の警備システムも作動していないようだ。騒ぎに気づいた通行人がすでに警察への通報を試みているかもしれないが、強盗犯たちの動きは迅速だ。事態は完全に彼らの意のままになるかに思われた。
 そこに、不意にその青年が現れた。金髪の青年は美しく整った容姿をしているが、ひときわ目を引くのは、まるで中世ヨーロッパの貴族の服のような真紅の衣装だ。彼は空中から降ってきたかと思うと、客を脅しつつ見張りについている男の背後にひらりと軽やかに着地した。気配に振り向いた男には、青年が突然湧いて出てきたように感じられたことだろう。もしも、何かを感じる余裕が彼に残されていたならばの話だが。
 金髪の青年は着地と同時に右足のホルスターから素早く銃を引き抜き、覆面の男が振り向いた直後にその眉間を撃ち抜いた。頭蓋に綺麗に穴を開けられた男はそのまま仰向けに倒れる。それを確かめもせずに、金髪の青年はすぐさま体の向きを変え、今度は人質を取っている男に銃を向けた。残る二人の強盗は仲間を殺めた銃声に同時に振り返ったが、そのときにはすでに、青年は手にした銃の引き金を引いていた。人質を取っていた男がどさりと床に倒れ、それきり動かなくなる。弾は、またしても正確に眉間を貫いていた。
 最後の一人となった男はパニックを起こしかけたように怒鳴り声を上げた。何事かを叫びながら金髪の青年に向かって立て続けに二、三発発砲したが、その弾が青年を傷つけることはなかった。驚くべきことに、青年は銃弾をかわしたのだ。弾が当たる直前に身を翻したりしたわけではないが、自分に銃が向けられた時点で、弾が飛んでくる方向を的確に読んだかのように右横へ避けた。生死を賭けた銃撃戦のさなかとは思えない、焦りや必死さを微塵も感じさせない優雅な身のこなしだった。飛び降りてきたときの着地の仕方といい、人間離れした動きだ。
 弾は青年をかすりもせずに宙を飛んでいく。青年の後ろにいた客たちから悲鳴が上がったが、彼はそれを気にかける様子もなく、強盗犯が次の行動を起こす前に再び引き金を引いた。乾いた音が鳴り、強盗犯の体が崩れ落ちる。男の手からこぼれた銃が磨かれた床を滑っていった。次いで、それまでの騒ぎが嘘だったかのように、店内はしんと静まり返る。ついに、哀れな強盗グループの最後の一人も事切れていた。
 それら一連の出来事はわずか一瞬のうちに起こり、その間、金髪の青年は一度も表情を変えなかった。彼は、なおも人形のような冷たい無表情のままで、店の中央に静かに立っている。
 店内は、しばしの間完璧な静寂に包まれていた。誰も何も言わず、なんの音もしない。店員も客も目の前で起こったことへの理解が追いつかないのか、恐怖を感じているというよりはあっけに取られたような様子で固まっている。
 ようやく、店員の一人――人質にされていた方の女だ――が我に返り、腕につけていた携帯通信機に向かって切羽詰まった声で助けを呼び始めた。それを受けて他の客たちも現状を思い出したのか、銃撃戦によって損傷を受けた店内にはざわめきが戻り始める。ほとんどの人間がいまだショックから立ち直れずに硬直したままだったが、客の何人かは叫び声を上げながら店の外へ向かって逃げ出した。
 金髪の青年はそれを追うでもなく、周囲の様子になどまるで関心がないといったように微動だにしない。彼のまとう空気だけが明らかに異質で、彼一人だけが別の空間にいるかのようだ。


 監視カメラに記録されたその映像を見ていた阿久津健二は、金髪の青年を直接目にしたときのことを思い出して体に震えが走るのを感じた。
 二日前、レイモンド・ストレイスや藤原ゆかりらとともにSGAの本部に戻る途中、健二はアクセサリー店を襲う強盗事件に遭遇した。健二が現場に駆けつけたときには強盗犯はすでに殺された後だったが、強盗たちを殺害した金髪の青年の姿を目撃したのだ。
 彼は監視カメラの映像で見た通り、騒ぎの中で一人佇んでいた。彼を目にした途端、その異様な雰囲気に目が離せなくなったことをはっきりと覚えている。
 健二が彼を見つめたまま立ちつくしていると、永遠にそのまま動かないのではないかとさえ思えた青年は、ふと健二の方を向いた。アイスブルーの瞳に射すくめられ、その瞬間、健二の体は恐怖で凍りついた。同時に、何とも形容しがたい気味の悪さも覚えた。彼の瞳は感情というものをまるで感じさせない冷たさで、無機質なロボットのようだ。確かに健二を見てはいるのに、それで何かを感じたり考えたりしている気配はまったくうかがえず、“ただ顔がこちら側を向いているだけ”といった風だった。健二の聴覚からはひととき音が消え、彼以外のものも視界から消え去ったかのような感覚に襲われた。こちらに焦点を合わせる透き通った瞳は健二を吸い込んでしまうかのようだ。
 途方もなく長く感じたその数秒間の間に、健二は自分の死を予感した。金髪の青年が殺気を放っていたというわけではないのだが、彼の発するオーラには確かに、本能的に“殺される”と思わせる何かがあった。目をそらして今すぐここから逃げ出さなくてはいけない、と頭の中の声が告げていたが、健二の全身は彼の目に囚われたかのように動かなかった。
 しかし意外なことに、青年は急に興味を失ったかのように健二から視線をそらしたかと思うと、踵を返して店の奥へと姿を消した。彼の目から開放された途端、金縛りから解けたときのように体の感覚が元通りになった。
 健二のそばにいたレイとゆかりが駆け出し、金髪の青年の後を追って荒れた店内に向かおうとしたが、ワイヤレスイヤホンの向こうから聞こえる彼らの上司の声に止められたようだ。足を止め、イヤホンに手を当てて上司の指示に耳を傾ける様子を見せたあと、二人はすぐに健二のところに戻ってきた。
 レイは茫然となっている健二に足早に近づいてくると、険しい形相で健二を怒鳴りつけた。

「お前、何考えてんだ!? なんで来たんだよ!」

 数多くの女性を虜にしてきたであろう甘い垂れ目が健二をきつく睨みつけており、普段の優しげな表情からは想像もつかない剣幕だ。
 事件が起こったとき、レイは健二に車で待っているようにと強く言った。にも関わらず、健二はそれを無視してレイたちを追い、危険を冒して事件現場まで出てきたのだから彼が怒るのは当然だろう。

「すまない」健二はレイの気迫に圧倒されながらも素直に謝った。「ただ、二人のことが心配になってしまって」

 健二が現場にやって来たところで、健二には何もできない。それどころか、もしかしたらもう少しで自分も被害に巻き込まれていたかもしれないし、レイやゆかりまで危険にさらしてしまう可能性もあった。自分が悪かったことはよくわかっている。

「とにかく、健二くんを連れて早くこの場を離れましょう」

 騒然としている周囲に不安げに目をやり、ゆかりが早口で言った。アクセサリー店が面した道路には数台のパトカーが到着し、慌しく降りてきた警察官たちが人々の避難誘導や現場の確認を始めていた。
「そうだな」レイはまだ何か言いたげな様子だったものの、ゆかりの言葉にうなずき、健二はレイとゆかりに先導されて車を駐車した場所へと引き返した。
 並べて停められた二台の車の横では、車から降りたアマンダが心配そうな顔で立っていて、行きかう人の合間に健二たちの姿を認めると慌てて駆け寄ってきた。

「健二! よかった、大丈夫だったんだね!」

 そのままぶつかるかの勢いで健二の前までやって来たアマンダは、ひどくうろたえている様子だった。

「突然車から出たかと思ったらさ、すごい速さで走っていっちゃうんだもん! びっくりしたよ! 追いかけようと思ったけど、あっという間に見えなくなっちゃったし……」
「ごめん」

 アマンダの顔に少しずつ広がる安堵の色を見ているうちに、健二は再び心底申し訳ない気持ちになった。一人残された彼女はさぞ不安だったに違いない。
 本部に戻って事態が落ち着いたあと、健二はレイやゆかりの上司であるマーカス・クレイグからも、自らの軽率な行動について注意を受けることとなった。

「君がしたことは非常に危険な行動だったということを理解してくれ」

 クレイグの口調は決して健二を感情的に責めるようなものではなかったが、この件に関しては反論や言い訳を許さないという厳しさは十分に伝わってきた。

「君の命が脅かされるのはもちろん、それだけでなく、君の行動によっては我々全員に、もっと言えばまったく関係のない一般の人々にまで影響を及ぼす可能性もある。過去の時代の人間であると思われる君が突然現代に現れたことに、敵である阿久津賢士が関与しているのかどうかさえ、まだわからない状況なんだ。いろいろな意味で危険すぎる」
「すみません」健二は頭を下げた。
「SGAの保護のもと、君にも様々な協力をしてもらう上で、我々の指示には絶対に従ってもらわなくては困る。今後はそこを徹底してほしい」
「わかりました」

 冷静な眼差しと声遣いでいさめられ、健二は深く反省するほかなかった。


 それから二日が経った今日、健二はSGAのメンバーに混ざって、戸建て住宅を模した拠点の会議室でミーティングに参加していた。というより、実際は健二のために設けられた場だと言える。阿久津賢士に関することなど、まだほんの一握りしかわかっていない健二に対し、これからレイたちSGAとともに向き合っていくべき敵について、詳細に話すことが目的だ。
 健二は中央の席に座らされていた。他に会議用のテーブルについているのはレイ、ゆかり、そしてジャンの三人で、健二の真向かいの大きなスクリーンの横にクレイグが立っている。スクリーンには先ほどのアクセサリー店の強盗事件、そして謎の青年による強盗犯たちの襲撃の映像が繰り返し映し出されていた。

「君にはもっと時間をかけて少しずつ説明していくつもりだったが、こうなったらもうすべてを話してしまった方がいいだろう」

 クレイグの声で健二の回想は中断され、現実へと引き戻された。
 聞きたいことが山ほどあったため、健二にはそうしてもらう方がありがたい。この二日間、これまで閉じ込められていた留置部屋に代わって新しくあてがわれた部屋で、健二は様々な推測を巡らせていた。その中で、あの人間味を感じさせない金髪の青年は、本当にロボットか何かだったのではないかとも思った。
 彼はあの後、最初に吹き抜け部分から飛び降りてきたときとは逆に、建物の二階に上がって窓から外に逃亡し、数々の最新鋭の機器さえ駆使した警察やSGAの追っ手を振り切って姿をくらませたらしい。

「彼はいったい……」

 健二が言うと、クレイグはうなずき、映像を停止させて正面に向きなおった。

「阿久津賢士が洗脳技術を悪用し、洗脳した人間を自分の配下に置いて活動させているという話は聞いただろう」
「はい。それでは彼が……」
「ああ。君が見たこの男は、阿久津賢士によって洗脳された人間の一人だ」そう言って、ちょうど銃を発砲しようとした状態で静止している青年を映したスクリーンを指差す。
 わずかな衝撃を感じはしたものの、クレイグの答えは健二の予想のうちの一つだった。今回は起こった事態についてあらかじめ一人で考える時間を持てたため、今までのように予想外の真実への衝撃に翻弄されずにすむ。
 無機物のような独特の気持ちの悪さを感じさせる青年の目は、健二が見せられた、洗脳を施された凶悪犯罪者とどことなく共通しているものがあった。
 しかし、今のクレイグの言葉だけでは腑に落ちない点もある。

「でも、彼は普通の人間にはとてもできないような動きをしていました。刑務所で見た人たちとはずいぶん違いますよね」
「当然だ。囚人には我々に都合のいい――凶暴性を抑え、おとなしくなって人に危害を加えなくなるような洗脳を施しているが、阿久津賢士は拉致した人間に対して、彼にとって望む通りの行動をするように洗脳しているからな」

 洗脳を施すといっても、皆が同じ状態になるわけではないということか。やり方にも違いがあるのだろうか。

「この男をはじめ、阿久津賢士の配下とされた者たちの常人ならざる身体能力も、おそらく洗脳によるところがほとんどだろう」

 言いながら、クレイグは再びスクリーンの映像を再生させた。今度は音声はオフにしてある。健二は金髪の青年の動きを改めて観察した。

「君は、自分の命が危険にさらされるような状況などで、普通では考えられないような力を意識せずに出せた経験はないか?」

 たずねられ、健二はクレイグに目を戻した。そのようなことがあったかと、しばし自分の過去に思いを巡らせてみる。

「いえ、俺自身はありませんが……でも、その状態はわかります」

 いわゆる火事場の馬鹿力というものだろう。

「普段、人間は自分の持つ百パーセントの力を出してはいない。そのことは君も知っているだろうが……自らの体を守るために脳が制限をかけている。だが、危機的な状況や興奮状態に陥ると脳のリミッターが外れ、一時的に百パーセントの力を出すことができるようになるんだ。通常はそれを自分の意思でコントロールすることはできないが、阿久津賢士はリミッターを自在に外せるような洗脳を施していると思われる。同時に判断力の向上なども行っているのだろう」

 確かに、それならば金髪の青年の人間離れした身体能力にも説明がつくかもしれない。
 健二がクレイグの話に意識を集中している間、ゆかりは健二に見守っているかのような視線を向けていた。レイの方は腕を組んで、じっとスクリーンに目を凝らしている。

「ただ、洗脳だけであれだけの動きができるものなのかは、正確にはわからない。我々の方で調査したところ、体に機械を埋め込まれたりしているわけではないようだから、洗脳と合わせて筋力強化薬を使っているのではないかと考えている」
「筋力強化薬……ですか?」

 その単語から健二が真っ先に連想したのは、筋力トレーニングの効果を上げ、短期間で通常の何倍もの筋肉を得る目的で使用するアナボリックステロイド――筋肉増強剤だ。だが、すぐにそれとは別のものなのだろうと思い至る。健二が目にした青年は、ほどよく鍛えられた引き締まった体をしていたようには見えたが、特別筋肉質な体型ではなかった。

「筋肉量を増やすのではなく、もともとある筋肉の出せる力そのものを増幅したり、より大きな負荷に耐えられるようにする薬だ」クレイグは続けた。「病気や老化などで極端に筋力が落ちた人間に対処療法の一つとして使用されるもので、医師の処方箋がないと買うことができない。個人が簡単に手に入れられるものではないが……阿久津賢士はこの薬を何らかの方法を用いて入手した可能性が高い。あの男にとってはたやすいことだ」

 健二はそんな薬が存在するなどという話を聞いたことがなかったので、健二が生きていた時代以降に開発されたものなのだろう。
 内容自体は理解できているものの、話に出てくるのは今まで聞いたことがないことばかりなので、しっかりとした輪郭を持った現実として意識することができない。フィクションの映画や小説のあらすじを聞いたときのように、ぼんやりとイメージすることができるという程度だった。
 健二は自分の声に戸惑いの響きが混じっていることを自覚しながらも口を開いた。

「何人くらいの人が阿久津賢士に……」

 その先の言葉に迷い、間があいた。だが、クレイグはそれで健二が聞きたいことを理解したようで、また軽くうなずき返すとテーブルに置いてあった通信機器の通話ボタンを押した。

「劉」マイクに向かって、調査部の劉俊毅を呼び出す。「すまないが、頼みたいことがある」

「はい。なんですか?」スピーカーを通して、すぐに劉の声が答えた。その背後で、機械を操作するような音や電子音、複数の人間の話し声などがかすかに聞こえている。

「和泉と日向、それからオルコットの情報を転送してくれ」
「わかりました。ちょっと待ってください」

 通話が繋がっている本部の仕事場で作業をしているのだろう。しばらくの間、周囲の雑多な物音や会話だけが聞こえていた。
 それまでスクリーンを見つめていたレイが健二を振り返った。

「俺ら――つまり、捜査部は国に保管されてる情報とかを自由に見たりできねぇんだよ。それは調査部の特権なんだ。だから、機密性の高い情報を見たいときは調査部を通して、俺らが許可されてるものだけを見せてもらえるようにすんだよ」

 当然ながら、健二はSGAという組織内の制度や構成についてはまだほとんど知らなかったが、なかなか複雑らしい。

「SGAについてももっと詳しく説明しなきゃいけませんね」

 レイがクレイグに話しかけ、クレイグの方も首肯して同意を示している。
 待っている間、健二はクレイグが口にした“オルコット”という名に引っかかりを覚えていた。健二の記憶が正しければ、“オルコット”とはSGAに保護されている少女、アマンダ・オルコットの姓と同じだ。

「三人のデータ、転送しましたよ」やがて、スピーカから再び劉の声がした。

 クレイグは彼に礼を言うと、スクリーンの映像を消して新しい画像を表示させた。

「現在確認できているのはこの四人だ」

 スクリーンには四枚の写真が並んでいる。一枚は先ほども映像で見ていた金髪の青年の写真で、こちらも強盗事件のときのように銃撃戦を繰り広げている最中に撮影されたものらしいが、顔がはっきりと映っている。他の三枚はどれも真正面から撮られたバストアップの写真で、数日前にクレイグから見せられた健二の娘、阿久津留美の写真と同じようなものだ。
 クレイグは左端の写真を示した。手元のタブレットPCのような機械でも操作しているのか、写真が白い光で縁取られ、少し拡大された。若い男――まだ二十代半ばくらいだろう――日本人の男が写っている。長髪で、痩せた顔に釣りあがった目が特徴的だ。

「一人目は日向虎太郎(ひゅうがこたろう)。この男はSGAの、我々と同じ犯罪捜査部で働いていた」

 健二は写真をまじまじと見つめた。
 被害者は阿久津賢士によって強制的に連れ去られたようだった。犯罪の捜査という危険な仕事に就いていて、銃の扱いも心得ているSGAの職員が拉致され、洗脳されたのか? てっきり、阿久津賢士の被害に遭った人々は抗う術のない一般人だとばかり思っていたため、クレイグの言葉は健二を驚かせた。それはどのようにして起こったのだろうか。クレイグからさらなる説明がなされるかと思ったが、彼はここではその件についてそれ以上何も言わず、次の写真に移った。
 次は女の写真だった。豊かな赤毛を持った白人の女だ。外見から察するに二十代前半といったところだろうが、はにかんだような微笑はもっと幼い少女を思わせる。
 健二は、何気なく視界の隅のレイに目線を動かした。そのことに特に意味はなかったのだが、レイの顔を見た瞬間、その表情が意外で面食らった。彼はひどく怒ったような顔つきで、スクリーンを睨みつけるようにしていたのだ。気にはなったが、健二の注意はすぐにスクリーンの写真に戻されることとなった。

「シンディー・オルコット。彼女はアマンダの姉だ」クレイグが言った。

「え」思わず、健二の口から声がもれる。だが、クレイグはまたもやその簡潔な説明を述べただけで、健二が何か言う前にその横の写真を示していた。

「そして、和泉(いずみ)かおる」

 三枚目の写真に写っている人物は、もともとの髪質なのかパーマなのか、ウェーブした少し長めの髪をしたおとなしそうな青年だった。こちらを見つめる無表情はどこかつまらなそうだ。とても若く見えるが、童顔なので年齢を推測することが難しい。

「彼は――」

 続きを発しかけたクレイグはすぐに言葉を切り、どういうわけかゆかりに視線を向けた。彼女は今、目の前のテーブルに視線を落としている。わずかな沈黙の後、ゆかりは上司の言葉を静かに引き取った。

「かおるは……」

 ゆっくりと顔を上げ、健二と目が合う。健二の方を向いたその顔は、眉根が苦しげに寄せられ、悲痛な色を湛えていた。

「かおるは、私の弟なの」



>> To be continued.



大変長らくお待たせしました!!
ようやく、第三話の01を更新することができました!
8月はほんとに調子が悪くて、このままもう書けないんじゃないかと心配したこともあったのでよかったです。
待っていてくださった方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございますm(*_ _)m

今回も読んでくださってありがとうございます!
そして、前回以降の記事への拍手もありがとうございました!とても嬉しいです><*

二話までは健二が未来にやって来て未来のことを知り、周りの人に信用してもらうまで、という感じでしたが、
三話からはいよいよ敵とのあれそれが始まります♪


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