空松 音羽さんより頂いたアマンダ

一次創作サイト「Fender Kiss」の管理人の空松 音羽さんが、以前アマンダを描いてくださいました!

treasure_otohasan.jpg

とても可愛く描いてくださって、届いた絵を見た瞬間テンションが急上昇しました!(*´д`)

キラキラ光っているような瞳の色が目立って、とても綺麗///

少しはにかんだような笑顔が愛らしいです。
表情などからアマンダの明るい雰囲気も表現してくださっていて、そこもすごくうれしかったです!
まさに私の想像しているアマンダのイメージぴったり!という感じです。

音羽さん、本当にありがとうございました!!

●空松 音羽さんのサイト「Fender Kiss」
Fender Kiss/空松 音羽 様
絵と小説と漫画で活動されています。個性豊かで魅力的なキャラクターがたくさんいて、とても楽しいです。
お話のギャグシーンなども秀逸で、思わず笑ってしまうこと間違い無しです!


今まで他の方に描いていただいたみらついキャラの絵はすべて宝物として大切に保存して、
たまに見返してはエネルギーを頂いています(*´`)

一ヶ月半以上更新が停滞していましたが、近々作品の方も(ようやく!)載せられそうですので、
どうかもう少しだけお待ちいただけますと幸いです。
長い間待ってくださっていた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます!
拍手を下さった方もありがとうございました。

それから、一時休止していたみらつい雑記の方も更新を再開することにしました!
まだ新しい記事は書いていないのですが、こちらも明日かあさってくらいから更新していく予定にしていますので、
またよろしくお願いいたします!

未来への追憶 第五話 - 04

 日向虎太郎とシンディー・オルコットは、その場にいる大勢の視線を受けながら、建物の少し前まで進み出てきて足を止めた。
 レイの胸に、二人の命が無事だったという安堵感と久しぶりの再開ゆえの懐かしさ、そして恐怖が同時に込み上げてくる。
 虎太郎の切れ長のつり目は、冷たく鋭い眼光をこちらに向けているものの、顔はまったくと言っていいほどの無表情だった。ベールに顔を囲まれ、うつむき気味に立っているシンディーの方は、よく見るとうっすらと微笑を浮かべている。しかし、目だけは不自然に虚ろだ。

「お姉ちゃん!」

 アマンダがひどくショックを受けたような甲高い声で叫んだが、シンディーは妹の声に何の反応も示さない。
 やはり、SGAが予想していた通り、虎太郎とシンディーも洗脳を受けているのは間違いない。
 いつの間にか、フランツとかおるは道を空けるように左右に分かれていた。その後ろに、虎太郎とシンディーが佇んでいる。今、レイたちの目の前に、阿久津賢士に拉致された被害者が全員そろっていた。

「クレイグさん……」

 武装隊員の一人が、不安げにクレイグに呼びかけた。
 被害者であり、敵でもあるフランツたちは、まだ誰も武器を構えていない。一見、かおるやシンディーは武器を所持してすらいないように見えるが、虎太郎の袴の腰帯には、日本刀の鞘のようなものが差されているのが確認できた。フランツにだってまだナイフがあるし、彼らの背後の研究所に戻りさえすれば、他にもたくさんの武器があるだろう。
 まさか今日、虎太郎やシンディーまで姿を見せるとは思っていなかった。健二の存在なくして阿久津賢士に立ち向かうのは、これまで通りSGAにとってあまりにも不利となるため、この場で被害者の救出を試みるという選択肢は無い。しかし、虎太郎たちの身体能力がフランツやかおると同等かは定かでないが、いくらSGA側の人員が増加されたとはいえ、一度にこの人数を相手にすれば勝算が見込めないどころか、無事に撤退することも難しいかもしれない。
 レイも不安を覚え、横目でクレイグの顔をうかがった。研究所を睨みつけるようにして押し黙っていたクレイグは、しばらく沈黙を保った後、口を開いた。

「ここで争うつもりか?」阿久津賢士に向かって、険しさを帯びた声音でたずねる。
「いいや」すぐに阿久津賢士の声が答えたが、彼は間を空けてさらに続けた。「まあ、それは君たち次第、とも言えるが」

 クレイグの眉間に刻まれたしわが深くなる。

「我々の目的は先ほど話したのと変わりない。お前に話があって来ただけだ。そちらが手出しをしない限りは、こちらも何もする気は無い。少なくとも、今日のところはな」
「では、君たちの言う、その話とやらを聞かせてくれないか」

 阿久津賢士は相変わらずのんびりとした調子でそう返してきたが、SGAが単なる説得のために来たのでないことは信じる気になったようだ。

「さっきも言った通り、伝えるべきことを話し終えたら我々はここを立ち去る。お互い、今夜はもうこれ以上、戦闘へ発展するような行いはしない――そう、約束してくれ」

 クレイグは一言一言を丁寧に発音するように、落ち着いたトーンでゆっくりと言った。
 今度は、返答が返ってくるまでに時間があった。濃い緊張感が漂う中、敵側の面々はこちらに視線を注いだまま、銅像のようにじっと動かない。かおるだけは時折、飽きたように姿勢を変え、ゲートの縁に体をもたせかけたり腕を組んだりしていた。
 ゆうに数分は過ぎたのではないかと思うような長い静寂を挟んで、阿久津賢士の低い声が響いた。

「わかった。約束しよう」

 レイは唾を飲み込んだ。阿久津賢士がSGAの要求を承諾した。もちろん、彼の言葉が無条件に信ずるに値しないものであることは明らかなので油断はできないが、これで自分たちの目的を果たすことができる。こう着状態だった状況が、自分たちと阿久津コーポレーションの輪に健二が加わることで、ついに変わるときが来るかもしれない。
 クレイグは通信機のマイクをオンにしようと、左耳に装着しているイヤホンと一体型の機器に手をやったが、そこでまたわずかに迷うような間があった。研究所の方に据えた目は、最後の様子見をしているようにも思える。

「待機二班」やがて、クレイグは通信を繋いで言った。「研究所の前へ」


* * *


 車は建物の合間の暗い通りを流れるように進んでいく。健二は後部座席で前のめりになり、ひざの上で両手を握りしめていた。
 いよいよ、自分の出番がやってきた。胸の辺りがざわざわとうごめくような感覚で落ち着かない。のどは渇ききり、拳を作る手のひらは異常なほどの量の汗で濡れていた。
 前の席から、健二とは初対面である犯罪捜査部の職員が振り返った。

「いいですか、どんなときでも必ず、私たちやクレイグさんの指示に従ってください」

 もしかしたら、以前に健二が独断で行動してしまったことをクレイグから聞いて知っているのかもしれないが、彼は強く念を押した。

「はい」健二はうなずきながら、やっとのことでかすれた声を絞り出した。

 研究所の正面に待機している仲間のSGAの背後に出られるよう、車は一度後退しつつ最初に待機していた地点へ戻り、さらに南へ移動してから大通りを目指している。先ほどクレイグが指示を出したため、本部から到着した武装部隊の応援チームも、健二たちの車の後ろから少し距離を空けてついてきていた。
 実際にスピードはそれほど出てはいないのだろうが、健二は自分を乗せた車が研究所へ向かって走るのが、やけにゆっくりに感じられた。
 大通りに出ると、阿久津コーポレーションの巨大な研究所が目の前に現れる。先ほどは闇に沈んでいた敷地内に照明が灯り、研究所の周りだけが明るく浮かび上がっている。夜の町の中で、そこだけが異空間のようだった。
 車は歩道に乗り上げながら、通りを塞ぐSGAの車を避けてその右側に出ると、二台の車の横で停車した。

「車から降りて、私の後ろへ。様子を見ながら慎重に進め」

 通信機の向こうから、クレイグの命じる声がする。
 健二は、SGAの本部を出る前にゆかりに渡されていた小さな器具をスラックスのポケットから取り出し、右手でしっかりと握った。

「絶対に私たちから離れないでください」

 車を降りる直前、またもや武装部隊の隊員の一人に言われ、健二は言葉の意味を理解する余裕も持てないままに、首を縦に振った。
 犯罪捜査部の男を一人車に残し、健二と武装隊員たちはともに車の外に出た。研究所の周囲に何人もの人間が集まっているが、人数の割りに外は静かだった。そして、ビリビリと肌に感じられるほど、辺りの空気が張り詰めているのがわかる。
 この時代に来てからは現実離れしたことばかり目にしているが、それでも研究所とその周囲だけは切り取られた夢の中の世界のような、異様な雰囲気だ。向かい合って立ついくつもの人影や、やたらに明るい照明のせいもあるのか、映画の撮影でもしているかのような錯覚を覚える。自分はさながら、今からその舞台へと足を踏み入れる主役にでもなったような気分だった。

「行きましょう」先ほど車内で声をかけてきた隊員に小声で促される。

 健二は三人の武装隊員に周りを囲まれるようにして、眼前で自分を待ち受けている光景に向かい、一歩、二歩とゆっくりと歩みを進めた。逆光で正面ゲートの周辺に立っている人々の顔は見えづらかったが、何人もの視線を浴びているのが感じられる。とっくに興奮状態を極めていた体から、なおもアドレナリンが放出される。
 前へ進むために動かしているはずの手足はふわふわとしていて、他人のもののように感覚が無い。まるで体が自分の意思とは関係無く、勝手に動いているかのようだった。
 正面ゲートの前に立っているSGAメンバーのところまで近づくと、こちらに背中を向けて一列に並んでいる、レイやクレイグたちの姿が見分けられた。隣を歩いていた隊員に手振りで指示され、健二は彼らが立つ位置からいくらか下がった場所で立ち止まった。
 体を傾けて健二の様子を確認していたらしいクレイグが、研究所に向きなおる。

「彼を呼び寄せたのはお前なのか?」

 クレイグが研究所の方に向かって問いかけるのが、彼の背中越しに聞こえた。

「お前には、この男が誰かわかるだろう?」

 健二を手で示しながら、クレイグが質問を重ねる。健二は緊張のあまり頭のどこかが麻痺でもしたかのように、未だ現実感を持てずにそれを聞いていた。

「いや、わからんな。私が呼んだとはどういうことだ」

 冷淡さが伝わるような、温かみの無い老齢の男の声――阿久津賢士の声だ。その声に、まだ記憶に新しい様々なイメージや感情が脳裏によみがえり、健二はぞっとした。
 次に、クレイグは少し間を取ってから、すべてを阿久津賢士に知らせるための決定的な事柄を口にした。

「彼を、この時代にタイムスリップさせたということだ」
「タイムスリップだと? 何を馬鹿な……」阿久津賢士が鼻で笑った。

 健二はそこで再び歩を進め、クレイグの斜め後ろまで近づいた。健二の姿を覆い隠すように落ちていたレイやクレイグの陰から出たため、外灯によって顔が明るく照らされる。大きく息を吸ってから、健二は乾いた唇を動かした。

「俺は――阿久津健二といいます」

 顔も見えない相手に向かって告げる。てっきり頼りなく震えてしまうだろうと思っていた自分の声は、思いの外しっかりしていた。

「あなたの……曽祖父にあたる人間です」

 一拍置いてからそう続けると、周りを流れる空気が凍りつき、場の緊迫感が高まった。

「何だと」阿久津賢士の声色が硬く変化した。
「俺は、一ヵ月半ほど前の五月十二日、この2148年にやって来たんです。133年前の、2015年から」

 一気に言って口を閉じると、自分の声が途切れた途端、辺りがひどく静まり返っているように思えた。沈黙が続く。
 距離が縮まったことで、今はフランツやかおるが無感動にこちらを見つめているのもはっきりと見て取れた。

「もちろん、私たちもタイムスリップなどにわかには信じられなかったが、DNA鑑定などで詳しく調べていくと、タイムスリップという超常現象が現実に起こったことを受け入れるしかない結果が出た」

 クレイグはそう補足したあと、「これがその証拠だ」と言って健二に目を向けた。
 それが目での合図だと理解した健二は、スーツのジャケットとシャツの左袖のボタンを外し、ひじの上まで捲り上げた。次いで、右手に握り込んでいた器具を左腕に持っていく。
 事前に何度も使い方を練習したその器具は、緊急の検査などが必要な際に医師免許等を持っていないSGA職員でも使用できる、血液を採取するための道具だ。健二がタイムスリップして来た直後、ゆかりが健二の血を採るのにも使っていた物だった。
 汗で濡れた手のひらでは、器具がすべって上手く扱えないのではないかと心配していたが、不思議と汗はずいぶん引いており、今は肌の表面が軽く湿っている程度だった。
 練習通り左腕をまっすぐに伸ばし、器具の先端をひじの内側に当てる。チクリとした痛みが柔らかい皮膚を襲った。それに耐えて器具をそのまま腕に押し当てていると、半透明の筒の中に血液が溜まっていくのが見える。筒の中の血が一定の量に達すると、皮膚を刺している針が自動で腕から抜けるので、健二はそれを待ってから腕に当てた器具を離した。筒状の容器になっている部分を器具から取り外し、さらに一歩前へ踏み出す。そして、敵から視線を外さないように注意しながらかがみ込むと、研究所に向け、自身の血が入った筒を勢いをつけて転がした。健二の手を離れた細長い筒が、コロコロという小さな音とともに地面を転がっていく。


* * *


 阿久津賢士は、椅子の上で大きく身を乗り出していた。体を支えるため、肘掛けを強く掴んだ両手が激しく震えている。
 正面のディスプレイに映る濃紺のスーツを着た若い男が、カメラを通してではなく実際にすぐ目の前に立って、自分を見つめているように感じられた。
 SGAのマーカス・クレイグが話し始めたときは、いったいどんな奇妙な作戦を考えたのだと、半ばあざけるような気持ちだった。スーツ姿の男が車から降りてきたときも、最初は本当に誰かわからなかった。
 ところが、数歩前に出てきて光を受けた彼の顔を見た途端、驚きに心臓がドクンと脈打った。

「以前、レイモンド・ストレイスと一緒にいるところを見かけた男です」

 賢士のいるモニタールームに繋がっている通信機の一つから、部下の一人である男の声が知らせてきた。だが、その静かな声は今の賢士の耳には入らない。
 スーツを着た東洋人の男の顔は確かに、何度も――いや、何度もどころではない、いつもいつも見つめ続けていた写真に写っていた、若い頃の曽祖父の顔だった。顔くらいなら、日本中を探せば瓜二つの人間が存在するかもしれないし、もとより整形手術などでいくらでも変えられる。
 しかし、賢士の中に切ない郷愁を呼び起こす彼の目が、その可能性を否定した。懐かしく温かい祖母の目が、彼の目に重なる。力強い芯を秘めながら、優しい光にあふれた目。
 わざわざDNA鑑定などで調べなくてもわかる。SGAに連れられてやって来たあの人物は、阿久津コーポレーションの創設者であり、賢士の曽祖父でもある、阿久津健二本人なのだ。正常な感覚を持っていれば信じがたいことだったし、論理的に説明できるような根拠など無い。それにも関わらず、賢士はまるで頭上で強烈な光が閃き、脳天を雷で打たれたかのような衝撃とともに、そう確信した。次の瞬間、今度は興奮が体を突き抜けるような勢いで湧き上がってくる。

「奇跡だ……」

 耳に届いた自分の声を聞いて、賢士は自分が頭の中の呟きを無意識に声に出していたことに気がついた。
 賢士に寄り添うように椅子のすぐ脇に立っている少女を見上げると、彼女もグレーに近い薄い青の瞳に賢士を映していた。賢士が震えの収まらないしわだらけの手を差し伸べると、少女の方も手を差し出してくる。彼は繊細な壊れ物を扱うように、その小さな手をそっと包み込んだ。祖母が死んでからはずっと、彼女の存在が賢士の心のよりどころとなっている。

「これで、すべてがそろった。……いよいよだ、ハンナ」

 少女に向けてささやくように言った声には、明らかな高揚の色が滲んでいた。
 まさか彼が、このタイミングで自分の前に現れるなんて。彼と自分が出会うことは、本来なら絶対にあり得ないことだった。それなのに、タイムスリップという超自然的な現象によって、それが可能となった。これは自分のために起こった奇跡としか思えなかった。
 やはり、自分のやっていることは正しいのだ。見えない力が、自分に味方をしている。
 賢士は、衝撃が次第に打ち震えるような強い感動へと変化していくのを感じながら、少女の手を握る老いた左手にわずかに力を込めた。


* * *


 健二の血を入れた筒は、速度を落としながらもまっすぐに転がっていく。フランツが、自分の足元まできて止まりかけた筒を拾い上げた。
 健二はその様子を固唾を飲んで見守っていた。
 阿久津賢士は未だ黙ったままだ。彼がこのことを――健二の存在と、自分の祖先がタイムスリップして過去からやって来たという話を、どう受け止めたのかわからない。

「DNAの検査装置くらいは研究所にあるんだろう。その血を使い、今私が言ったことを、自分で調べて確かめてくれ」しばらくして、クレイグが再び口を開いた。「彼は現在、我々の方で極秘に保護している。最初に発見されたのが、SGAの所有する敷地内だったからな」

 彼は相手の反応をうかがうように一旦言葉を切ったが、阿久津賢士は何も言わなかった。

「初めはお前が差し向けたスパイではないかと疑ったが……この件に関して、お前は本当に関与していないんだな?」
「ああ」

 ようやく、賢士の短い答えが返ってきた。感情も、考えも読めない声だ。
 だが健二は、先ほどの賢士の驚きは本当ではないかという気がした。彼の態度には嘘も演技も無く、たった今初めて健二の存在を知ったのだ。漠然とではあるが、健二は直感的にそう思った。

「なにぶん前例がないため、彼の扱いを今後どうするかはまだ決まっていない。ただ、こんな状況でも、阿久津健二と血縁関係にあるお前には知らせておくべきだと思ったんだ」クレイグは慎重に言葉を継いだ。「処置が決定すればまた改めて話し合うことになると思うが、当面はSGAの方で保護を続けるつもりだ」
「ああ」

 やはり阿久津賢士の反応は鈍い。相手がどう出るか予想ができずに警戒を強めたためか、下ろしたままの麻酔銃を固く握りしめているクレイグの全身の筋肉に力がこもるのが、後ろにいる健二にもわかった。
 SGA側がしばし黙って待っていても、阿久津賢士はこれ以上しゃべりそうにない。かと言って、約束を反故にして今すぐ攻撃を仕掛けてくるつもりであるようにも見えなかった。

「我々の話は以上だ。約束を守ってくれ」クレイグが気迫を込めた強い声で言った。
「そうだな」

 賢士の返事を合図とするかのように、正面ゲートの奥に立っていた見知らぬ男女がくるりと踵を返した。顔での判別はできないが、車で待機していたときに聞いていた通信での報告から推測するに、おそらく日向虎太郎とシンディー・オルコットだ。
 彼らが研究所の建物に入ると、ゲートの横開きの扉がスライドし始めた。フランツとかおるもこちらに向けた注意はそらさず、一歩ずつ後ずさってゲートの内側へ戻ってゆく。

「礼を言おう」

 ゲートが閉まる直前、最後にそう言った阿久津賢士の声が、扉の間をすり抜けてきた。そして、金属が触れ合う鈍い音を一つ響かせ、ゲートは再び閉ざされる。同時に、街灯だけを残してすべての照明が消え、急に現実世界に引き戻されたような感覚を覚える。あとに残ったのは静けさだけだった。
 しかしその静けさは長くは続かず、次の瞬間にはもう、通信でお互いにやり取りをするSGA職員や武装隊員たちの声が、イヤホンから次々に流れ始めた。研究所の方を向いて固まっていた人の群れも動きだす。
 ふと、健二の前に立つレイの姿が目に留まった。彼はひととき、研究所を見つめたまま立ち尽くしていた。その横顔は寂しげで、どこか怒っているようにも見える。彼にとって虎太郎とシンディーはとても大切な存在だったようだ。敵の一員となった親友を見て、何も感じないわけがない。彼の複雑な心境は容易に察せられた。
 レイに声をかけるべきか迷ったが、そのとき背後がざわついているのに気がつき、健二の意識はそちらへ向いた。振り返ると、いつの間にか応援チームの車も健二の乗ってきた車両のそばに停まっており、背後には思っていたよりも大勢の武装隊員たちがいた。それぞれ周囲に目を配ったり、通信で報告をしたり、車を発進させる準備をしたりしている。彼らに歩み寄ったクレイグが何か言っている。
 終わったのだ。作戦の第一段階は無事に成功した。そう理解して体の力がいくらか抜けると、どっと疲れが出たのか頭がぼんやりとしてきた。
 健二は動き回る武装部隊に向けていた視線を、何気なく上方にずらした。大通りの向こうに立ち並ぶ建物の上端と、弱い星の光が点在する漆黒の空が視界に入り――ぎょっとして思わず呼吸が止まった。大通りと交わる正面の道路沿い、大通りから二つ奥のビルの屋上に、何かがいたのだ。
 人影のようにも見えるそれは、黒いフード付きのローブを纏っていた。足元まである長いローブがかすかな風にそよいでいる。遠目だったが、頭をすっぽりと覆うフードの下で、白く月光を反射する顔がちらりと見えた。
 そのシルエットとその顔――身の毛がよだつ骸骨の顔は、イラストなどでよく目にする西洋の死神の姿そのものだった。

「あ、あれ……!」

 健二は思わず、ビルの上の影を指差して叫んだ。その声に反応して皆が一斉に振り返り、健二の人差し指が指し示す方向を仰ぎ見る。しかし、そのときにはすでに不気味な黒い影はさっと身を翻し、闇にまぎれ込むように姿を消した後だった。

「どうしたんだよ?」何も見つけられなかったレイが、訝しげに眉を寄せた顔を健二に向けてたずねてくる。
「あ、あそこのビルの屋上に今、死神みたいなものが……」
「し、死神!?」

 健二が見たものを正直に伝えると、レイは頓狂な声を上げ、たった今健二が指差した方角に再度目をやった。彼はそのまま軽く笑みを受かべてみせたが、その口元は引きつっている。

「し、死神なんて……んなもん、マジでいるわけねえだろ? 健二の見間違えじゃねえのか?」
「そ、そうだよな……」

 タイムスリップが非現実的であるのと同様、創作物や伝説の中の死神は実在しないという一般的な常識も、2015年と変わらないようだ。

「レイ、もしかして怖いのか?」

 左耳のイヤホンから劉のからかうような声がして、会話に加わってきた。

「そりゃ、怖いっすよ!」レイはむきになったように声を張り上げたあと、「俺、お化けとかそういうの駄目なんすから……」と、弱々しく付け足す。寒いどころか蒸し暑く感じるくらいの気温であるのに、肩をすぼめた彼は、ロングコートに包まれた両腕をさすっている。そこにはさっきまでの思いつめたような様子は無く、すでにいつものレイに戻っていた。
 死神はお化けとは違うのではないか、と思いながら、健二はもう一度ビルの上を見た。

「今監視カメラの映像で確認してるけど、その辺りには怪しいものは何も映ってないみたいだけどな。まあ、ちょうどカメラの死角にいたのかもしれないけど」

 レイを冷やかしながらも、任務は真面目にこなしているらしい劉の声が聞こえてくる。彼の言う通り、もはやビルの上には死神――本当にそんなものがいたとすればだが――の影も形も見当たらなければ、周辺で何かが動くような気配すらも無かった。急に健二も寒気に襲われ、身震いをする。
 本当に見間違えただけならそれに越したことは無いのだが、そうでないなら気味が悪いし、目撃したものが死の象徴とも言える存在だけに、不吉で嫌な感じだ。

「早く車に戻るんだ」

 健二がビルを見上げたままなかなか動こうとしないため、クレイグが周囲に目を走らせながら言った。

「はい」健二の代わりにレイが答える。彼に「行くぞ」と背中を押されて、健二はレイたちが乗ってきた大型の車の方に向かった。帰りは捜査チームの面々と同じ車に乗ることになっている。

「念のため、ビルの付近を調べますか?」ゆかりがクレイグにたずねる声が聞こえた。
「いや、今ここに残っていれば、阿久津賢士に約束を違えているとも思われかねない。そうなると危険だ」
「そうですね」

 クレイグは武装部隊の一人の名を呼び、彼のもとに駆け寄った隊員に言った。「熱源感知器で、ビルの外から周辺に人がいないかだけを調べてくれ」

 健二とレイが車に乗ると、続いてアマンダをつれたゆかり、そしてジャン、最後にクレイグが乗り込んできた。

「もし誰かいたんだとしたら、屋上にある出入り口から建物の中に入ったのか? にしては、隠れんのが速えけど……」健二の向かいに座ったレイが、ぶつぶつと独り言のように呟いた。
「なんだったんだろうね」アマンダも横で首を傾げている。
「どうせ見間違いだろ」

 ジャンが心底馬鹿にした声で吐き捨てるように言ったが、今回は珍しくレイも彼と同意見のようで、誰も何も言い返さなかった。
 ジャンの運転で車は発進し、武装部隊の車も一台、その後ろに貼りつくようについてくる。車が大通りをUターンして、商工業地区をまっすぐに伸びる道に入ったとき、通信で武装部隊からの報告があった。

「クレイグさん、先ほどのビルやその付近には誰もいないようです」
「わかった。すぐに引き上げろ」

 そう応答してから、クレイグは前部座席で体をひねり、健二と目を合わせた。

「そういうことだが……明日以降、また綿密な調査をしてみよう」

 健二は声を出さずにうなずくことで返事をした。
 死神らしき影が屋上に立っていたビルの横を車が通りすぎるとき、健二は窓越しに頭上を見上げてみた。しかし、やはりビルの上には何もいない。
 車は徐々に走る速度を上げ、阿久津コーポレーションの研究所はどんどん遠ざかっていく。今も、背後にかすかに見えている研究所の明かりは消えたままだ。誰かが追いかけてくるような気配も無い。研究所から離れるにつれ、胸の中の安心感が膨らみ、緊張が解けたことで疲労感が募っていく。作戦は無事にやり遂げられたのだと、改めて実感した。
 だが、車が本部に戻り、それから地下トンネルを通って無事に拠点に帰り着くまで、高ぶった気持ちはずっと体を満たしたままだった。


 朝の気配を感じて目を開けると、カーテンを通して柔らかい光が部屋に差し込んでいた。視界に映っているのは現在の自分の部屋として馴染みつつある、健二にあてがわれた拠点の一室だ。枕元のホログラムの時計を表示させると、時刻は六時を少し過ぎたところだった。アラームをセットした時間よりはいささか早いが、起床にはちょうど良い時間だったし、すでに頭はすっきりと覚醒していた。
 健二はベッドの上で上体を起こした。この部屋にもともとあった質の高い寝具を使っているのに、体は強張っていて、上半身をひねるとあちこちが軋むように痛んだ。爽やかな朝だというのに、思わず顔をしかめてしまう。ベッドに腰かけたまま一度大きく伸びをしてから、健二は立ち上がって窓辺に寄った。
 カーテンを開けると、眼下の庭を囲む塀と、その向こうに道路を挟んで立つ戸建ての家などが見える。高級住宅地なのかこの辺りの家はすべて大きく、立派な造りをしていた。前の道には人や車の通りも無く静かで、小鳥のさえずりだけが聞こえている。家々の屋根の上には雲の少ない薄い青色の空が広がっていた。気持ちの良い晴れで、昼間は暑くなりそうだ。鳥が一羽、目の前の窓枠のすぐ向こうを横切っていく。
 今日もこれまでと変わらない、平和な朝だ。健二は胸をなでおろし、外の景色を眺めながら深呼吸をした。
 阿久津コーポレーションの研究所に行ってから、すでに三日が経っていた。SGA本部でも拠点でも警戒を続けていたし、健二も敵が拠点に攻め入ってくるのではないかと怯えていたが、今のところそういったことは何も起きていない。あの日以降に発生した事件の現場にも阿久津賢士の仲間は現れていない。クレイグによれば、賢士からのメッセージと思われるようなものもどこにも届いておらず、特に変わったことも無いそうだ。
 だが健二は、フランツやかおるが拠点にやって来て、平穏が引き裂かれる夢を毎日のように見た。凄惨な戦闘が行われ、最後には彼らの手が自分に向かって伸ばされるのだ。窓の外を見ていた数分の間に忘れてしまったが、今日もそんな夢を見ていたような気がする。目覚めたばかりなのに、体が緊張して疲労を感じるのはきっとそのせいだ。
 健二は身支度をして軽く朝食を済ませたあと、拠点の会議室で行われたミーティングに出席した。内容は主に、二十五日の作戦決行中、研究所の近くに現れたという若者のグループについての報告だった。彼らに詳しく話を聞いたところ、彼らはアンチ・テクニシズムのメンバーというわけではなく、その真似事をしていただけらしい。自分たちの憂さ晴らしと楽しみのために、阿久津コーポレーションとSGAが対峙していたことも、あの地域に立ち入り禁止の命令が出されていたことも知らず、単なる思いつきで研究所の塀に落書きをしようと企てていたということだ。若者の一人が研究所付近の商工業地区にある会社の社長の息子で、夕方前から定休日だった会社の地下倉庫に仲間とともに忍び込み、酒を飲みながら身をひそめているうちに眠ってしまった。そして、深夜になって外へ出たところ、フランツに見つかって襲われたというわけだった。

「まったく、人騒がせっつーかなんつーか……」

 ほとんど空になった食器を前にして、フォークとナイフを置いたレイが嘆くように言った。
 ミーティングが終わったあと、ゆかりとジャン、クレイグはすぐに本部へ帰ったが、レイとアマンダは拠点に残り、久しぶりに健二も交えた三人で拠点のダイニングテーブルを囲んでいた。今日の昼食は洒落たカフェで出てくるメニューのような、キッシュとサラダとスコーンが皿にきれいに盛りつけられたものだった。

「でも、助かってよかったよね」

 いつものようにレイの隣に座るアマンダも、食事の手を止めて言う。

「ああ、そりゃそうだ。あいつら助けられたのはアマンダのおかげでもあるしな」レイはそう言ってにっと笑ったあと、神妙な表情を作った。「けど、もうあんな無茶すんなよ?」
「うん」

 アマンダは若者を助けるために大きな活躍をしたらしかったが、研究所へ行った日の翌日、彼女はクレイグに呼び出されて厳しく叱責されたと言っていた。健二はそのときの状況を直接見ていたわけではなく、通信機から聞こえる音声でアマンダに何かあったことを知れた程度で、詳しい状況は何もわからなかった。しかし、ナイフを持った彼女が無謀にもフランツに向かっていった、という話をあとから聞いて、その様子を想像しただけで背筋が寒くなった。クレイグでなくとも怒るのは当然だろう。健二は、自身もこの時代に来て初めて外へ出たとき、レイたちの指示を無視して勝手に車から降り、クレイグに注意を受けたことを思い出した。
 アマンダがフォークをサラダに伸ばして会話が途切れたので、健二はその間に気になっていることをレイに聞いてみることにした。

「その不良グループみたいな若者に、洗脳された人たちと戦ってるところを見られたんだよな? 噂とかで広められたりとか、そういうことは大丈夫なのかな。彼らはもう帰したのかい?」
「いや、まだだ。その件もどうにかしなきゃいけねえ――つまり、あの日見たことは絶対口外しねえってなんとか約束させなきゃならねえし、他のテクノロジー開発系の企業の建物にも落書きされる事件が何件か起きてっからよ、どこまでがあいつらのやったことなのかとかも、一応もっと詳しく聞かなきゃいけねえし。すぐには帰せそうにねえよ。……ったく、ほんと面倒なことになったぜ」レイはうんざりしたように溜め息をついた。
「でも、作戦を開始する前に、研究所の付近に人が残ってないかは確認したんだよな? SGAの武装部隊の人とかでも、誰かがいるのに気がつかないなんてこともあるんだな」
「俺もなんでだって困惑したけど、まさか地下の奥の方に隠れてる奴がいるなんて思いもしなかったんだろうな。地下への入り口はロックされてたっつってたし。熱源感知センサーとかにもある程度近づかねえと引っかからねえし、どっちみち絶対に正確なもんでもねえしな。まあ、全員無事だったから良かったけど……次からはもっと念入りに調べなきゃいけねえってことだ。最近はこういう事件ってあんま無かったからさ、たぶんまだ慣れてねえ隊員もいたんだろうな」
「なるほど……単純なミスみたいなものだったのか」

 レイはコップに注がれていた水を一口飲んでのどを潤してから、また話を再開した。

「まあ、健二が死神を見たっつービルとその周りの建物の方は、次の日にちゃんと隅々までじっくり調べたみてえだけど。それでも、何かがいた痕跡とか、変なもんとかは何も見つかってねえらしいけどな」
「やっぱり、俺の気のせいだったのか……」健二は腑に落ちないながらも呟いた。
「きっとそうだぜ。神経も疲れてただろうし」

 すぐさま肯定したレイの顔はわずかに曇っていた。よほど死神の存在を恐れているようだ。
 だがレイの言う通り、極度の緊張状態にあったのは確かなので、本当に何かの影などを一瞬見間違えただけなのかもしれない。このことは忘れようと、健二は心の中で自分に言い聞かせた。

「そう言えばレイ、今日休みって言ってなかった?」

 健二とレイが話している間に、サラダを少しと小さなスコーンを一つ食べ終えたアマンダが、ふと思い出したといった様子でレイに顔を向けた。

「ああ、そうだぜ。けど、なかなかみんなの都合が合う日がねえからよ、今日は俺が午前中のミーティングだけ参加することにしたんだ。今からはオフだけどな」
「大変だな」

 健二は感じたことを素直に口に出していた。健二も元いた2015年で働いていたときは、残業や休日出勤は何度も経験していたが、それでもSGAの仕事は本当にハードで、誰にでもできることではないといつも思う。常に不規則な勤務で事件が起こればすぐに対応しなければならず、今のように特殊な事件を担当していれば、任務外で危険な目に遭う可能性があることも考慮しなければならない。しかも、少なくともレイやクレイグたちはそれを当然のようにやってのけているのだ。

「別に、たいしたことねえよ」

 レイは笑顔で言うと、再びナイフとフォークを取り上げ、皿に残っていたキッシュを食べ始めた。フォークを口に運びながら、ちらりと上目遣いでアマンダに目をやる。

「アマンダはこのあと本部か?」
「うん。ゆかりが今までに行方不明の届け出があった人たちのリストをチェックするから、それを手伝うんだ」

 タルト生地の最後の一欠片を食べ終えると、レイは席を立った。椅子の背もたれでしわになりかけていた制服の上着を、ばさりと肩に掛ける。

「んじゃ、俺ちょっと出てくるわ」
「いってらっしゃい!」

 アマンダが手を振る。近くに控えていたロボットが、さっそく空いた食器を片付けようと寄ってきた。
 健二はリビングダイニングを出て行くレイの後ろ姿を見送った。彼の頭の後ろで、長い髪とともに、それをまとめる淡いピンク色のリボンが揺れていた。



>> To be continued.



9月中に載せられたらいいなあと思っていましたが、ギリギリ無理でした…!;
読んでくださった方、ありがとうございます!!

今回はだいぶ前から書きたかったシーンが詰まった回でした。
そして、今回こそは短めに収まりそうかなと思っていたのに、結局(最近の)標準よりちょっと長いくらいに…(笑)

最近は一回の文字量が多くなっている関係で更新に一ヶ月前後の間が空いてしまっていますが、
いつも待ってくださっている方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます!m(*_ _)m
前回以前の記事に拍手を下さった方もありがとうございました!とてもうれしいです。

この頃みらつい雑記の方も更新停滞気味ですが、あちらにもまたおもしろいネタを書けるようにがんばりますね!

読者数の参考にしたいので、小説を読んでくださった方は各記事の拍手ボタンを押していただけますと助かります。
もちろん強制ではありませんので、気が向いたらで構いません!


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