天宮悠惺さんより頂いたクレイグと劉

当ブログよりリンクを貼らせていただいているサイト「Aldyss」の管理人・天宮悠惺さんが、
「未来への追憶」のクレイグと劉を描いてくださいました!!
許可を頂きましたので、こちらでご紹介させていただきたいと思います(*´▽`)

treasure_amamiyasan.jpg

カッコイイ…!(悶死)

キリリとしたボスも、食えなさそうな笑みを浮かべている劉先輩も、二人とも素敵すぎる…(*´д`)

天宮さんのサイトにはかなり前からちょくちょくお邪魔して作品を見させていただいていたので、
そんな方に描いていただけてむちゃくちゃ嬉しかったです。
美麗な絵柄で、この二人の特徴などもちゃんと表現してくださっていて感動しました!

天宮さん、本当にありがとうございますm(*_ _)m
PCとスマホに保存して、時々眺めては癒しを頂いています(笑)

●天宮悠惺さんのサイト「Aldyss」
Aldyss/天宮悠惺 様
ファンタジーのオリジナル長編小説や漫画を連載されています。
登場人物は様々な年齢の美形揃いなので、ファンタジーや美形好きの方にはとてもオススメです!


自分の創作のキャラクターを他の方の絵で見られるって、すごく幸せですね!
みらついキャラを描いていただいたのは初めてだったので、舞い踊りたいほどテンションが上がっていました(笑)

前回の「第四話 - 04」等、小説を読んでくださった方、そして拍手を下さった方もありがとうございました!!^^*

未来への追憶 第四話 - 04

 文芸交流センター。外壁の一部がガラスのカーテンウォールになっているダークグレーの高層ビルは、シックな趣と、一見近寄りがたい威圧的な存在感を持っていた。
 アンチ・テクニシズムの集会が行われる六月十二日。健二とSGAのメンバーは、“パーティー”が始まる予定の十四時より少し前に、二台の車でビルの近くに到着した。健二はクレイグ、レイと同じ車に乗り、ゆかりとジャンは別の車で異なるルートを使い、ここまでやって来た。劉は先にビルの周辺で待機していたので、クレイグは途中で彼を車に乗せ、目的地に向かった。

「何も異常は無かったか?」

 後部座席に座った劉を振り返り、前の座席からクレイグがたずねた。

「事前に調査した通りで、今のところ特に変わったこともありません」

 すべての動きは、おとといの会議でクレイグが説明した作戦通りだった。
 しかし、文芸交流センターの建物に近づいてみると、状況は想定していたものとはいくらか異なっていた。建物の付近にいるはずだと思っていた警備員や警備用ロボットは、どちらも姿が見えなかったのだ。ガラス張りの大きな正面入り口の前には、休館を知らせる看板が出されている。
 車窓から周囲を観察していたレイが、不思議そうな声を上げた。

「警備員がいないっすね」
「あれ? おかしいな」

 劉もそう言うと、前に身を乗り出すようにしてフロントガラスから外に目を凝らした。
 先ほど、彼が通信を通して伝えてきたところによれば、正面入り口と裏口の前に警備員が一人ずつ、通用口には警備用ロボットが一体いたはずなのだ。劉はそれらを直接確認するために、一足早く目的のビルの近くまで赴いて最終的な調査を行っていた。
 街中にはSGAで管理している監視カメラが多数設置されているらしいが、すべての建物や通路を余すことなく映し出せるほどではない。当然、カメラに映らない場所も存在するが、この辺りもちょうどその死角に位置するようだった。
 レイは首をひねって少し考えた後、横に座るクレイグに顔を向けた。その間も、車はどんどんビルに迫っていく。

「集会が始まるから、中に引き上げたんすかね?」
「いや、それは不自然だ」クレイグがすぐさま否定した。「通常なら、集会中も外で警備にあたっているはずだろう。何らかの理由で、一時的に場を離れただけかもしれない」

 ビルの外に警備員がいたならば、自分たちが事件の捜査で訪れたことを告げ、建物内部にいる人間には知らせずに中に通すよう、命じるつもりだった。警備員がアンチ・テクニシズムの一員なのかどうかはわからない。だが、今日のパーティーがアンチ・テクニシズムのひそかな集まりであることは知っているだろう。それでも、SGAが身分を証明するIDを提示し、「捜査のために建物を調べる必要があるから通せ」と言えば、普通の人間なら黙って従うしかない。会議のときに、クレイグはそう言っていた。

「とにかく、警戒しながら当初の予定通り中に入る。中で警備員に遭遇した場合は、その際に事情を説明すればいい」

 車はビルの横の道路を通り、建物内の駐車場の入り口に向かった。警備員がいなかったときは、外で顔をさらすことなく、車に乗ったまま中へ入れる地下駐車場から潜入することになっていた。
 正面入り口の前は通行人が多いので、SGAの制服を着たクレイグたちが車から降り、休館のビルに入ろうとしている様を見られれば、それだけで人目を引いてしまうだろう。
 それに、ドアの前には防犯カメラもついている。もちろん駐車場にも建物内にもカメラはついているので、いずれにせよ遅かれ早かれ映ってしまうことは避けられないのだが、できるだけそのタイミングを遅らせたかった。SGAが来たことを知った警備員が真っ先にアンチ・テクニシズムに知らせ、自分たちを逮捕しに来たと勘違いした彼らに騒がれたりしては困るのだ。
 すべてが自分たちの想定した通り上手くいくかはわからないが、早い段階で警備員だけに接触し、捜査に協力してもらうことが理想だった。
 駐車場の入り口にも警備員の姿は無かったが、入り口はゲートが閉じられてふさがっている。しかし、クレイグはあらかじめ劉が入手していた職員の個人認証データと、網膜のデータがコピーされているという眼球の模型のような球体を使い、難なくゲートを通過した。
 車は、駐車場へと入る緩やかなスロープを下っていく。健二が背後を振り返ると、車体後部の窓ガラス越しに、ジャンとゆかりの車も後に続くのが見えた。
 がら空きの駐車場に二台の車を並べて駐車すると、健二たちは車から降りた。まばらに停まっている車は、ビルの警備員やアンチ・テクニシズムのメンバーの物だろう。
 建物への入り口に向かって歩いていくと、駐車場に面して窓の取りつけられた管理室が見えてきた。しかし、室内には人影が無いように見える。自動ドアを抜けてビル内に入ると、管理室の入り口側の窓から室内を覗いたレイが眉をひそめた。

「やっぱり、こっちにも誰もいないっすね」
「妙だな」

 クレイグが、独り言のようにぼそりと呟いた。珍しく、感情がほとんど表に出ない彼の眉根も、わずかに寄せられている気がする。
 駐車場の入り口も閉めてあったのだから、人を置くほどの警備は必要無いと思ったのだろうか? と、健二は考えた。駐車場にも、管理室の側のエレベーターの前にも防犯カメラがついているようなので、遠隔で状況を確認することもできるだろう。
 皆、何か腑に落ちないものを感じつつも、考えたところで実際の理由などわからないのでどうすることもできない。とにかく、様子をうかがいながら地上階に上がることとなった。健二も黙ってついていくしかない。
 階段を使うと遠回りになるため、一階まではエレベーターで上がった。エレベーターが上昇する間、健二は身を固くしていた。カメラが捉えた侵入者の存在に気がついた警備員が駆けつけ、すでにエレベーターの前で待ち構えているのではと思うと、胃が締めつけられて冷や汗が流れる。しかし、扉が開いた先には誰もいなかった。
 クレイグとレイが先頭に立ち、正面入り口から入ってすぐのロビーまで向かう。
 ロビーに着くと、頭上の大きなシャンデリアを初め、照明は点いていたものの、広いフロアにはやはり人の姿は見えなかった。エスカレーターも止まっている。健二は高い天井を見上げた。これだけ大きな建物のロビーに自分たちしかいないという状況は普通はなかなか経験するものではないし、妙な感じで落ち着かない。ガラスの正面入り口の方に目をやると、前の通りを行きかう人々が見えた。
 クレイグはロビーの中央で立ち止まり、他の面々もそれにならった。六人で輪を描くようにして向かい合う。

「それでは、作戦通り私とストレイスはエスカレーターを上り、パーティーの会場となっている五階のメインホールへと向かう」

 クレイグの低い声は、閑散とした空間の中で広がり、わずかに反響するように聞こえた。

「おそらく、我々が建物の中に入ったことは中央監視室の警備員には知られているはずだ。そのうち、何かしらの行動に出るだろう。藤原とベルティエはメインホールと監視室、そしてそれ以外の場所、どこで問題が起こった際にも対応しやすいよう、念のため少し時間を置いてからメインホールまで来るんだ」
「了解しました」

 返事をしたのはゆかりだけだったが、クレイグはそれには構わず、ついで劉に視線を移した。

「劉は健二を連れて十階の中央監視室に行き、その都度、施設内の状況を報告してくれ。何かあったらすぐに知らせろ」
「はい」

 劉が答えたが、クレイグは健二にも目を向けた。

「君もだ」
「わかりました」

 今日も健二の左の手首には、この間バーを訪れたときと同じ携帯通信機がついている。今回は、前日にレイからもっと詳細な使い方を教えてもらっていた。幸い、健二はもともと機械類に強いので、この機器の操作方法もすぐに頭に入った。

「くれぐれも気をつけてね」

 ビルの奥へ向かうため、踵を返してその場を離れようとした健二にゆかりが声をかけてきた。彼女の心配そうな顔は、健二を引き止めたくなるのを堪えているかのように歪んでいる。
 本当は「ゆかりさんも」と返事をしたかったのだが、ゆかりの隣で射すくめるような視線を健二に向けている彼女の婚約者の存在が気にかかり、健二は短く「はい」と応えるまでにとどめた。

「行くぞ。こっちだ」

 手首に装着した機器でホログラムの構内地図を表示し、劉が先に立って歩きだす。健二も慌てて後を追いかけた。一度肩越しに後ろを振り向くと、ホールに残った四人は健二たちを見守るように佇んでいた。
 開放感のある広々としたホールから、非常階段へと続く細い廊下に入る。こちらにも人の気配は無い。小さめの展示室や、何かの講座などを開くための教室らしき部屋が並んでいるようだ。二人は地図を見ながら廊下を進んだ。
 健二は不安げに左右を見回し、それから少し前を歩く劉に顔を向けた。

「ほんとに大丈夫なんですかね」

 集会というからには、相手は大人数なのだろう。もし、彼らにやましいところがあるのなら、SGAの登場に動転して荒っぽい行動に出ることもあり得る。その場合、こちらはたったこれだけの人数で太刀打ちできるのかと、健二は不安だった。

「アンチ・テクニシズムは犯罪者じゃない。少なくとも、通常の自分たちの活動をしてるだけならな。暴力団でもないし、普通は武器も持ってない。と言うか、持てない」

 劉は淡々と言ったが、健二は懸念を拭い去ることができなかった。

「でも、持ってるかもしれないんですよね? 秘密の集会なんて開いてるくらいだし、何か企んでるんでしょう?」
「それは噂だから、まだ本当かどうかわからないだろ?」

 スーツのジャケットの中に手を入れると、劉はその下につけていたらしいショルダーホルスターから銃を抜き取った。

「それ」

 健二は劉の手の中の銃に目をやる。少し前、拠点でレイやアマンダたちと交わした会話が頭をよぎり、いささか逡巡したが結局口に出した。

「弾は入ってるんですか?」
「当然だろ。何言ってるんだ?」
「いえ……」

 健二の問いについてそれ以上追求することなく、劉は右手に持った銃をちらりと見下ろした。

「十中八九、これを使うことにはならないだろうけどな」
「それは麻酔銃じゃないんですね」
「ああ。麻酔銃はSGAしか使えないんだけど、それもいつでも使えるってわけじゃないんだ」
「そうなんですね」

 2148年もSGAの世界も健二には知らないことだらけで、新しいことを一つ知るたびに感嘆にも似た気持ちを覚える。

「今回は仕事中にお邪魔して場所を空けてもらって、防犯カメラの映像とか建物のデータをちょっと見せてもらうだけだから、まあ、脅すために持ってるようなもんだな」

 劉は冗談のように言ってにやりと笑ったが、さすがに健二の方には、「俺を脅したときみたいにですか」などという軽口を叩く余裕は無かった。
 間もなく右手に曲がり角が現れ、その先には目指していた階段があった。

「十階まで上がるぞ」
「はい」

 殺風景な非常階段を、やや急ぎ足で上っていく。二階の踊り場に差し掛かったとき、劉が上階に続く階段を見上げたまま言った。

「危険なのはこっちじゃない。僕たちがここに来たのは阿久津賢士に洗脳された奴らが来るかもしれないからで、アンチ・テクニシズムをどうにかするためじゃないからな。阿久津賢士の仲間が来るとしたら中央監視室なんかじゃなくて、ボスたちが向かったメインホールの方だ」

 そう言われて、健二は改めて自分の役割を思い出した。そうだ、健二が今ここにいる理由も、間接的にでも阿久津賢士に接触できるチャンスが訪れるかもしれないからだ。
 階段に一段一段足をかけながら、自らが考えた阿久津賢士に対抗するためのアイデアのことが、健二の脳裏を巡っていた。


「俺を事件の現場に連れて行って、阿久津賢士に俺の正体を明かさせてください」

 健二が「話したいことがある」と言ったため、拠点までわざわざ足を運んでくれたクレイグに、健二は固い意志を秘めた声でそう告げた。その場にはレイとゆかりもいた。

「阿久津賢士に直接会うことはできなくても、彼の仲間にされている人たちに言えば、阿久津賢士に伝わるかもしれません。俺を人質のように使えれば、何かの役に立つはずです」

 クレイグ以外の二人は、目を丸くしてあからさまに驚きの表情を見せていた。真っ先に口を開いたのはレイだった。

「何言ってんだよ。んなことできるわけねえだろ?」
「そうよ、危険すぎるわ」ゆかりが同意する。

 さらに反論を重ねられる前に、健二はやや早口気味に続きを発した。

「クレイグさん、俺がこの時代にタイムスリップしたことに阿久津賢士が関係しているのかどうかは、まったくわかっていないんですよね?」
「ああ」彼は静かに肯定した。
「それなら、阿久津賢士に直接たずねてみるのも一つの手じゃないかと思ったんです」

 健二は強い声で歯切れ良く言った。2015年、会議室に集まった皆の視線が注目する中、自身が考案した製品の価値や必要性をうったえかけるようにプレゼンテーションしていた自分が重なるようだった。

「こんなことができるのかどうかはわかりませんけど、もし阿久津賢士自身が俺をこっちに呼び寄せたのなら、最初から狙いがあったということになります。俺がここにいることがわかれば、俺に接触しようとしてくるはずです。阿久津賢士がタイムスリップに無関係だった場合でも、彼は、自分と血の繋がりのある俺が、敵であるSGAのもとにいることは望まないと思うんです」

 後半はまったくの想像にすぎず、なんの根拠も無かったが、阿久津賢士の立場になって考えてみて思ったことだった。

「だから、どうにかそこを利用して、いざというときの交換条件などに俺を使えないかと」

 健二が話す間、クレイグは彼をじっと見つめていたが、やがて感情を込めない穏やかな声音で言った。

「君が危険にさらされることになる」
「それは、わかってます……」

 そこで初めて、健二の視線が床に落ちた。語尾も弱く消え入りそうなものになる。しかし、両の拳をぎゅっと握り締め、彼は再び顔を上げた。

「でも、このままだと状況は変わらないし、みんなが危険な目に遭うんじゃないですか」

 阿久津賢士の思惑によって殺されたアンチ・テクニシズムの人々や、和泉かおるたちとの交戦によって負傷したジャンのことを思いながら言った。
 レイが困ったように頭の後ろに片手をやった。

「でも、阿久津賢士が健二をタイムスリップさせたんじゃなかった場合だけどよ、健二が過去から来た自分の祖先だなんて、あいつが信じるとは思えねえぜ」
「そうかもしれない。俺自身だって、最初はまったく信じられなかったくらいだから。でも、SGAが自分を誘い出すために何か計画を進めていると思うだけでも、少しはこっちに興味を持つんじゃないかな。もしかしたら危機感も持つかもしれない。そしたら、向こうからコンタクトを取ってくることもあるんじゃないかと思ったんだ」

 健二が一息に言うと、レイとゆかりは難しい顔になり、視線を下げたまま押し黙ってしまった。ゆかりは一度、何か言いたげに健二の方を見て口を開いたが、その艶やかで魅力的な唇は何の音も発さないままに閉じられた。
 しばらく沈黙が続いた後で、クレイグがゆっくりと口を開いた。

「阿久津賢士はおそらく、DNAの解析装置くらいは所持しているだろうと思うが、そうでなくとも、DNAのデータを調べさせるだけならたやすいことだ。君が姿を見せ、君の血液などをその場で採取して相手に渡せば、彼にもそのデータが本物だとわかるはずだ。それを調べるように言えば、いずれ、君が本物の自分の祖先であるという事実にたどり着くかもしれない」

 阿久津賢士に健二の存在を信じさせるためには、データとして表れた揺るぎない証拠がいる。クレイグは健二がすべてを説明しきる前から、彼が言わんとしていたことを理解したようだった。

「それを信じるかどうか、そもそも阿久津賢士が我々の言葉に従うかどうかはわからないが、先ほど健二が言った通り、私も彼の興味を引くことはできるだろうと思う」

 同意されて内心うれしかったが、健二はそれを態度に出さないように気を配った。

「以前、健二くんと話していたんですけど」

 ゆかりが自分の上司を見上げ、ためらいがちに話し始めた。

「健二くんがタイムスリップする前の世界と、今のこの世界が繋がっているのなら――つまり、私たちのいる2148年が、健二くんがいた2015年と同じ時間の流れの先にあるのなら、過去の健二くんが事故に遭った際に命を落としていた場合、阿久津コーポレーションがこの時代に存在しているのはおかしいのでは、と思ったんです」

 話の途中でレイが額に手をやり、必死で考え込むような表情になってしまった。眉間には深いしわが刻まれ、苦悶しているのかと思うほどの面持ちだ。

「そのことについては答えを出せないままですが、過去と未来は相互に影響し合う、という前提で考えるとすると――」
「今、ここにいる阿久津健二に何かが起きた場合も、この時代に変化が現れる可能性が無いとは言い切れない、ということか」クレイグがゆかりの言葉を引き取った。
「そうです」

 腕を下ろしたレイが、「なるほど」と呟くように小さくもらしたのが聞こえた。

「俺の身に何かあれば、俺の子孫である阿久津賢士にもなんらかの影響が及ぶかもしれません。彼にそう言った上で、俺を人質に取っている振りをしてこちらの要求を伝え、それを呑まなければ俺を殺すと脅してください」

 健二が重ねて言うと、クレイグは少し目を細めた。

「君を人質のように使うという方法は私も考えなかったわけではないが、あまりにもリスクが大きすぎると思っていた。まさか、君が自分から言いだすとは思わなかった」
「突然大胆なこと言いだすから、びっくりしたぜ」と、レイも苦笑する。
「それを実行したとき、果たして阿久津賢士がどんな行動に出るのか、予測しようとも実際のところはわからない。健二だけでなく、我々にもさらなる危険が及ぶかもしれない」

 そう述べた後で、「しかし――」とクレイグは続けた。

「現時点でも、危険な状況を歩んでいることに変わりはない。正直なところ、前回の事件のときはベルティエの命が危なかった。そのための手段さえあるのならば、今後、阿久津賢士の行いがますますエスカレートする前にそれを止めたいというのが、我々の切実な願いだ」

 まだ迷っているような表情ながらも、レイとゆかりも賛同するように大きくうなずいた。
 大きな窓から入り込んでくる午後の温かな日差しが、リビングダイニングで話す健二たちを包んでいた。クレイグは一度目を伏せ、思案するように口をつぐんだ。健二もレイもゆかりも、黙って彼の次の言葉を待った。
 少しの間の後、顎を上げたクレイグの顔は、窓を通り抜けてきらめく明るい陽光に照らされていた。

「君の案を実行に移せないか、検討してみよう」

 その光を受けながら、クレイグは健二を見てそう言ったのだった。


 踊り場から続く階段の先の壁に、『9』の表示が見えてきた。

「ああ、息が切れてきた」

 劉が、いくら調査部と言えども、特殊な任務にあたる国の最高機関の一員とは思えないような情けないことを言う。だが、荒い息遣いからすると冗談でもないようだった。健二は顔をしかめた。

「ちょっと、大丈夫なんですか?」

 つい、非難めいたふうにも聞こえる台詞が口をついて出てしまうが、そう言う健二の声にも苦しげな呼吸音が混ざっている。

「やっぱり、日頃のトレーニングはやっとくべきだな」
「やってないんですか?」
「調査部は強制されてないからな。護身術の訓練とかも、入って何年か経ったら受講は任意なんだよ」

 なるべく足音を立てないようにして、最後の階段を上がる。健二の不安を煽るような弱音を吐いていたものの、十階の床を最初に踏んだのは劉の方だった。
 健二もそれに続いたが、そのとき、かすかな異臭が鼻先をかすめた。この臭いはなんだろう? 何かに似ている――そう、鉄だ。金属的で、それでいて喉を圧迫するような甘ったるさのある、独特の臭い。
 頭の片隅で警告の鐘が鳴り始めていたが、健二は思考が麻痺したかのように歩き続けた。劉が立ち止まったことにも気づかず、引き寄せられるようにふらふらと交差する通路に向かう。
 しかし、健二が曲がり角の先に足を踏み出すことはなかった。

「ちょっと待て!」

 ささやくようながらも強い声とともに、劉の腕に行く手をさえぎられる。健二はつんのめるようになりつつ足を止めた。戸惑いながら振り向くと、彼は階段を上りきる前とは打って変わって、緊張した面持ちでじっと前を見据えていた。初めて目にする劉の張り詰めた表情に、健二の動揺が増す。
 そこまで来ると、辺りに漂う臭いははっきりと認識できるほど濃くなっていた。息苦しくなり、胃がむかむかしてくる。

「この臭いって……」

 呟くように言った健二の声はひどくかすれていた。その臭いの正体が何なのか、本当はすでに本能的な部分で感づいていたのだが、その可能性を否定したい気持ちもあったのかもしれない。
 それに対して、劉は普段の彼には似つかわしくない、低く冷えた声でぼそりと答えた。

「たぶん、血の臭いだ」

 健二は、全身の血が冷えたように感じた。この角の向こうでは、こんなに強く香るほど大量の血が流れているのか? 腹の辺りが強張り、内臓を強く掴まれているような心地になる。恐怖に息ができなくなった。
 この先に待ち受けているものを思うと今すぐにこの場を逃げ出したい衝動に駆られるが、健二の体は硬直したように動かなくなり、それも適わなかった。


* * *


「おい」

 健二と劉の姿が見えなくなってから、クレイグもエスカレーターに向かって歩き出そうとしたが、背後から鋭い声が飛んできて再び足を止めた。そちらに向きなおると、ジャンが腕を組んでこちらを睨みつけるようにしている。

「なんだ」
「あいつらを二人で行かせてよかったのかよ」

“あいつら”とはもちろん、健二と劉のことだろう。ジャンがどういう真意で今さらそんなことを言い出したのか探ろうと、クレイグはすぐにはその問いに答えなかった。ジャンはクレイグの方に一歩踏み出し、さらに続けた。

「俺はまだ、あの阿久津健二とかいう男が敵のスパイじゃないと認めたわけじゃねえ。今のところはおとなしくしてるみてえだから、何も言わなかっただけだ。だけど、あいつにはあまりにも怪しいところが多すぎるだろうが」

 話すごとに、彼の声音は荒々しさを増していった。

「ジャン」ゆかりが諌めるような強い声で彼の名を呼んだ。「今は目の前の作戦に集中して」

 ゆかりにたしなめられると、いつもはたじろぎつつも言うことを聞くことの多いジャンだったが、このときは違った。彼はゆかりの方を見もしなかった。

「そんな奴を信用して作戦にまで参加させて、しかも調査部とたった二人で行動させるなんて、無用心にもほどがある。俺もあいつらについて十階に行く」
「今、お前を中央監視室に向かわせるわけにはいかない」
「なんでだ!」

 クレイグがきっぱりと言い切ると、ジャンはクレイグを突き刺す眼差しをますます険しくし、凄むような声を出した。

「お前の任務は、阿久津賢士の仲間が現れた際にすぐに対処できるよう、集会が行われているメインホールの側で待機することだ。中央監視室やその他の場所で何かあったときにはそちらに駆けつけられるよう、お前と藤原はここでしばらく待機し、様子を見てから動く。それで充分だ」

 クレイグは淡々と答える。ジャンは異を唱えようと口を開いたが、クレイグはその隙を与えなかった。

「このチームのリーダーはお前ではなく、私だ。命令には従え」

 声に威圧する調子を込め、あえて冷たく言い放つ。彼の言葉の迫力に圧されたかのように、一瞬その場がしん、と静まり返った。
 ジャンはまだ何か言いたげに、怒りに満ちた燃えるような瞳をクレイグに向けていたが、クレイグはその視線を振り払うように背中を向け、今度こそエスカレーターに向かった。レイも黙ってそれに従う。
 銃を手に、停止したままのエスカレーターを素早く、しかし慎重に上っていった。上階を含め、周囲の様子に注意深く目を凝らすが、どの階にも人がいる様子は無い。中央監視室にいる警備員は、本来ならいるはずのないSGAの姿をカメラが捉えていることにとっくに気づいているはずだ。

「ジャンにはほんと、困りましたね。悪いやつではないと思うんすけど」

 ふと、クレイグの顔色を伺うようにこちらにちらりと目をやり、レイが言った。
 クレイグ自身、ジャンの言い分も分かる。しかし、先ほどは火に油を注ぐことになると思ったので本人には伝えなかったが、彼に単独で行動させるわけにはいかないのだ。それに、中央監視室に行かせた結果、いつものように阿久津健二に突っかかり、かえって面倒なことにならないとも限らない。彼が前回の事件のときのように命令に背いた行動を取ろうとした際、止められる人間が側にいなくては困る。そして、ジャンの場合、それは自分かゆかりだけだとクレイグは思っていた。
 これまでは、協調性に欠けるジャンの短所を理解しつつも、彼の能力を任務に活かすことができればと考えてきた。だが、それが不可能ならば致し方ない。指示を受け入れる必要がある時とその理由は彼にもわかるだろうと期待した、自分の判断が間違っていたと諦めるしかない。前回、彼は勝手な行動を取り、それが原因で死にかけたのだから。

「今度、また命令を無視した行動を取るようなことがあれば、彼はチームから外すしかない」
「そうっすね」

 レイも暗い声で同意した。その表情も声と同じく曇っている。
 一度も人と出くわさないまま、メインホールのある五階の廊下に到着した。通路の先には、ホールの出入り口である大きな扉が三つ並んでいる。いつでも銃を構えられるよう、クレイグは銃把をしっかりと握り締め、向かい側の壁に背中をつけるようにして移動した。
 劉からはまだ連絡が無い。まだ、中央監視室まで辿り着けていないのかもしれない。そう思って立体マップを確認すると、彼らの位置を表す表示は、ちょうど非常階段の十階を示していた。もうじき、通信で何かしらの報告をしてくるだろう。ゆかりとジャンは今もメインホールにいる。
 扉の一つに近づいていくと、中からかすかに音楽が聞こえてきた。ピアノと弦楽器の優雅な音色。クラシック楽曲のようだ。表向きはパーティーを装っているから、そのような場にふさわしい演出でカモフラージュをしているのか、それとも本当にただのパーティーなのか。ホール内の話し声までは聞こえないので、外からは判断がつかなかった。
 二人は入り口を挟んで、その扉の両脇に立った。クレイグが扉の横の壁に身を寄せた、そのとき。扉の向こうから静寂を切り裂くような悲鳴が響いたのを耳にし、クレイグの身体に戦慄が走った。



>> To be continued.



読んでくださってありがとうございました!!
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いろいろ書きたいことはあるのですが、それはまた明日以降、雑記の方で書かせていただきますね!

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